私が投資を始めたきっかけには、ひとりの「恩人」がいる。
そう言うと、投資の師匠から個別銘柄を教えてもらったとか、株式投資の必勝法を伝授されたとか、そんな話を想像するかもしれない。
でも、実際は全然違う。
その人から教えてもらったのは、もっと小さなことだった。
「お金の置き場所を考える」という発想。
今振り返ると、それが私の資産形成の出発点だった。
投資なんて、自分には縁遠いものだった
そもそも私は、投資に対してかなり距離のある家庭で育った。
両親が昔、株で大きな損をした経験があったこともあり、我が家ではどちらかというと「現金が一番」という考え方だった。
株は怖い。
損をするもの。
お金を減らすかもしれないもの。
少なくとも、若い私にとって投資は「自分がやるもの」ではなかった。
社会人になっても、その認識は特に変わらなかった。
給料をもらって、貯金する。
お金は銀行に置いておく。
それが普通だと思っていた。
そんな私のところに、思いがけず投資の入り口を作ってくれた人がいる。
新卒で配属された先の、直属の先輩だった。
「iDeCoやってる?」
その先輩は、ことあるごとにお金の話をしてきた。
といっても、投資セミナーのようなものではない。
もっと軽い雑談だった。
「iDeCoやってる?」
「節税効果もあるから、長い目で見たらやった方がお得だよ」
そんな感じだった。
ふるさと納税についても、
「社会人1年目からできるから、やった方がお得だよ!」
と教えてくれた。
当時の私は、iDeCoもふるさと納税もよく分かっていなかった。
でも、職場は待機時間が長いところだったので、その先輩と雑談する機会は多かった。
その雑談の中に、自然とお金の話が混ざっていた。
今思えば、これがものすごく大きかった。
もし「投資について勉強しなさい」と言われていたら、私はたぶん身構えていたと思う。
ところが、その先輩は全然そんな感じではなかった。
偉そうに教えるわけでもない。
「こうするのが正解」と押しつけるわけでもない。
ただ、世間話の延長で、
「こういう制度があるよ」
「こうすると税金が安くなるよ」
と教えてくれる。
当時はそれが普通だと思っていた。
でも今振り返ると、相当な玄人だったのではないかと思う。
NISAを勧められても、個別株は怖かった
その頃にはNISAについても教えてもらった。
「NISAもやった方がいいよ」
と勧められた。
ただ、当時の私はまだ個別株に対する恐怖心が強かった。
何しろ、家庭で株の失敗を見聞きしている。
株を買って、値下がりして、お金が減る。
そんなイメージがどうしても先に立っていた。
そこで私が選んだのが、つみたてNISAだった。
個別株ではなく、投資信託から始める。
今思えば、かなり慎重なスタートだったと思う。
でも、それでよかった。
いきなり大きなお金を動かすのではなく、まず「投資をする」という行動そのものに慣れることができた。
そして、そこから少しずつ投資の世界が広がっていった。
その先輩から、個別銘柄を教えてもらったわけではない
ここは、今振り返ってみても面白いところだ。
その先輩は、私に「この株を買え」とは一度も言っていない。
個別銘柄を教えてくれたわけでもない。
「この会社は絶対上がる」なんて話もしていない。
投資手法を教えてくれたわけでもない。
教えてくれたのは、
お金には置き場所がある。
ということだった。
銀行口座に置いておくだけではなく、制度を使って節税する。
税金として出ていくはずのお金を、制度を使って自分の手元に残す。
投資信託を使って、将来のために資産を育てる。
つまり、「お金をただ貯めておく」のではなく、「お金をどう動かすか」を考えるという発想だった。
私にとって、それはかなり大きな転換点だった。
小さな種を植えてもらった
今思えば、あの先輩がくれたのは「小さなきっかけ」だった。
種まき、と言ってもいいかもしれない。
その種を育てたのは、後からの自分だ。
つみたてNISAを始めた。
投資信託を買った。
そのうち投資信託だけでは物足りなくなって、個別株にも手を出した。
配当金をもらう楽しさを知った。
株主優待にも興味を持った。
そして、コロナショックも経験した。
気づけば投資歴は10年近くになり、今ではすっかり「株クラ」と呼ばれても否定できないところまで来てしまった。
当時の自分が見たら、たぶん驚くと思う。
「株って怖いものじゃなかったの?」
と。
もちろん、今でも株は怖い。
株価は普通に下がるし、含み損になることもある。
それでも、昔とはお金に対する考え方が大きく変わった。
10年経って、ようやく分かったこと
投資を始めて10年。
今では、まとまった金額を投資に回すことにも、それほど抵抗がなくなった。
株価が大きく動いても、以前ほど慌てない。
高配当株をコツコツ買ったり、投資信託を積み立てたりしながら、自分なりの資産形成を続けている。
でも、もしあの先輩に出会っていなかったら。
おそらく今の私は、ここまで投資を続けていなかったと思う。
銀行口座にお金を貯める。
それだけでも、もちろん間違いではない。
けれど、そこに「資産を育てる」という選択肢が加わったことで、私のお金との付き合い方は大きく変わった。
投資を始めたことで、お金について考えるようになった。
税金についても調べるようになった。
制度についても勉強するようになった。
そして何より、「将来の自分のために、今のお金をどう使うか」という視点を持てるようになった。
ちなみに、その先輩はというと
最後に余談。
その先輩は、とにかく優秀な人だった。
あまりに優秀だったので、私が「先輩すごいなあ」と思っている間に、あっという間に昇進していった。
気づけば、もう簡単には手の届かないところまで行ってしまった。
当時はただの雑談だと思っていた。
仕事の合間に交わした、何気ないお金の話。
でも、10年経った今振り返ると、その何気ない会話が私の人生にかなり大きな影響を与えている。
人生を変えるきっかけというのは、案外そういうものなのかもしれない。
大げさな助言ではない。
強烈な一言でもない。
ただ、
「こんな制度があるよ」
「こういう方法もあるよ」
と、知らなかった選択肢をそっと渡してくれる。
その選択肢を使うかどうかは、自分次第。
でも、知らなければ選ぶことすらできない。
あのとき先輩が私にくれたのは、投資の答えではなかった。
「投資という選択肢が、自分の人生にもある」
ということだった。
あれから10年。
小さな種から始まった資産形成は、今もまだ育っている。
もしあのとき、あの先輩との雑談がなかったら。
今の私は、どんなお金との付き合い方をしていただろう。
そう考えると、人生のきっかけというものは、本当に不思議なものだと思う。
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