投資を始めたばかりの頃、筆者は直属の先輩からお金についていろいろ教えてもらった。
iDeCo。
ふるさと納税。
NISA。
どれも「これを絶対やったほうがいい」と押し付けるような感じではなかった。
雑談の延長で、
「こういう制度があるよ」
「こうすると節税になるよ」
と教えてくれた。
その小さなきっかけから、筆者は投資を始めた。
あれから10年。
今度は、筆者が家族に投資を教える側になった。
両親は投資に慎重だった
筆者の両親は、もともと投資に積極的なタイプではなかった。
むしろ慎重だった。
その理由は、過去に実際に痛い目を見ているからだ。
両親は昔、山一證券で大きな損をした経験がある。
そのため、投資に対して「怖いもの」という印象があったのだと思う。
筆者自身も、投資を始める前は似たような感覚だった。
家庭では現金を持っておくことが大切だ、という考え方が強かった。
だからこそ、両親が投資に慎重になる気持ちも理解できた。
そんな両親に、
「株を買ったほうがいいよ」
といきなり言っても、当然ながら響かない。
むしろ「また株で損するんじゃないの?」と思われるだけだ。
「日本円に全ベッド」は、それはそれで大きな投資
そこで筆者が話したのが、少し違った角度だった。
投資をするか、しないか。
株を買うか、買わないか。
そういう二択ではない。
そもそも、資産を日本円の現金だけで持っていることも、一つの選択ではないか。
という話だ。
日本円を持っていること自体が悪いわけではない。
生活費も必要だし、すぐ使う予定のお金を現金で持っておくのは当然だ。
ただ、資産のすべてを日本円だけで持つということは、日本円の価値に資産を集中させているとも考えられる。
物価が上がれば、同じ100万円でも買えるものは減る。
海外の資産が成長していっても、その恩恵を受けることはできない。
つまり、
「投資をしていないからリスクゼロ」
というわけではない。
投資をしないことにも、別のリスクがある。
そのことを伝えたかった。
いきなり個別株を勧めたわけではない
もちろん、だからといって、
「じゃあ明日から個別株を100万円買おう!」
とはならない。
むしろ、そんなことをしたら筆者自身が止める。
投資には値下がりがある。
元本保証ではない。
必要なお金を投資に回してはいけない。
こうした基本的なことを理解したうえで、余裕のある範囲から始めればいい。
過去に大きな損失を経験している両親だからこそ、無理をさせるつもりはなかった。
「全部投資しなくていい」
「少額でもいい」
「嫌になったらやめてもいい」
そのくらいの距離感だったと思う。
結果、母は個別株を楽しむようになった
そして現在。
面白いことに、母はすっかり個人投資家になった。
今では個別株を買い、高配当と株主優待を組み合わせて楽しんでいる。
「配当金が入った」
「優待が届いた」
そんな話をすることもある。
投資を始めた頃の母から考えると、かなりの変化である。
もちろん、母がどの銘柄を買うかについて、筆者がすべて口を出しているわけではない。
最終的にお金を出して、リスクを取るのは母自身だからだ。
筆者ができるのは、考え方や制度について情報を渡したり、
「こういう選択肢もあるよ」
と伝えたりすることくらい。
それでも、自分で選んで株を買い、配当や優待を楽しんでいる姿を見ると、少し面白い気持ちになる。
父はもっと慎重だった
一方、父は母ほど積極的ではない。
現在も国債をメインにしていて、そこに少しだけオルカンを入れている。
筆者としては、
「それくらいでいいと思う」
という感じだ。
何もかも株式にする必要はない。
むしろ、父の場合は過去の経験から投資への警戒心が強い。
そんな人が、自分で納得したうえで少額だけオルカンを持つようになった。
それだけでも十分大きな変化だと思う。
家族に投資を教えるのは難しい
実際に家族へ投資を教えてみると、難しいことが分かる。
自分のお金なら、
「まあ、下がってもそのうち戻るでしょ」
と考えられる。
しかし、家族のお金となるとそうはいかない。
「この銘柄いいよ」
と勧めて、もし大きく値下がりしたらどうするのか。
投資には絶対がない。
自分がどれだけ良いと思った銘柄でも、予想外のことは起こる。
だから、特定の銘柄を「これを買えばいい」と教えることには慎重になった。
むしろ伝えたいのは、銘柄よりも考え方だった。
「何を買うか」より「なぜ投資するのか」
投資を始めると、どうしても、
「何を買えばいい?」
というところから考えてしまう。
オルカンなのか。
S&P500なのか。
高配当株なのか。
優待株なのか。
でも、本当はその前に考えることがある。
なぜ投資するのか。
何年使わないお金なのか。
どのくらいの値下がりなら耐えられるのか。
どこまでならリスクを取れるのか。
そして、投資しないお金をいくら残しておくのか。
ここが決まっていないのに、銘柄だけ決めても仕方がない。
だから筆者は、家族に投資を教えるときほど、「この商品が正解」という言い方をしないようにしている。
かつての恩人と、今の自分
そして最近、ふと思うことがある。
かつて筆者に投資の入口を教えてくれた先輩も、個別銘柄を教えてくれたわけではなかった。
「iDeCoをやってみたら?」
「ふるさと納税は社会人1年目からできるよ」
「NISAという制度もあるよ」
そんな小さな情報を、雑談の中で教えてくれた。
そのときは分からなかった。
でも今なら、あの先輩がなぜ個別株を勧めなかったのか、少し分かる気がする。
人に投資を教えるというのは、銘柄を教えることではない。
「こんな選択肢もあるよ」と、資産形成の世界への入り口を見せることなのかもしれない。
投資の答えは、人によって違う
母は高配当と優待を楽しむ。
父は国債を中心に、少しだけオルカンを持つ。
筆者自身は、投資信託に個別株、高配当株や株主優待など、いろいろな投資を経験してきた。
同じ家族でも、選ぶものは違う。
それでいいのだと思う。
投資には、それぞれの性格や人生に合った形がある。
大切なのは、誰かの正解をそのままコピーすることではない。
自分のお金について、自分で考えられるようになることだ。
筆者もまだ投資歴10年。
個別株に至っては5年ちょっとの、まだまだ「ぴよぴよ投資家」である。
それでも、かつて先輩からもらった小さなきっかけが、今度は自分から家族へ渡っていった。
そう考えると、少し感慨深い。
投資の知識そのものよりも、「資産を育てる」という考え方を受け取ったこと。
そして今度は、それを自分の家族にも伝えられたこと。
それだけでも、10年前に投資を始めてよかったと思っている。

